長距離・超高速インターネットを用いたファイル転送速度の世界記録を達成

− 日米間インターネット上で、平均6.8Gbpsのディスク間データ転送を実現 −

 

連絡先:東京大学大学院情報理工学系研究科

平木 敬

電話:03-5841-4039(注1)

e-mail: hiraki@is.s.u-tokyo.ac.jp

概要

 

東京大学、富士通研究所、富士通コンピュータテクノロジーズによるデータレゼボワール・プロジェクトチーム(リーダー:東京大学情報理工学系研究科、平木 敬教授)は、日米間(東京、ポートランド間往復) 9800マイル (15680km)の超高速通信において、TCP/IP通信により、ネットワーク上のピークバンド幅8.0Gbps, 平均ディスク間データ転送速度6.8Gbps900GBデータを転送した。長距離データ転送の指標であるバンド幅・距離積は125,440 terabit-meters/secondであり、従来の日本記録を約17.7倍、従来の世界記録(38,421  terabit-meters/second)を3.3倍更新した。また、単純なバンド幅で比較しても、大陸間のデータ通信において従来の世界記録である5.44Gbps1.47倍更新した

 

このデータ転送速度は、日米間のデータ転送速度のこれまでの記録を10倍以上更新するとともに、長距離ファイル通信の世界記録を達成している6.8Gbpsのディスク間ファイル転送速度は、DVDのディスク1枚を約5秒で転送する速度であり、長距離インターネットの使用形態に対し、新たな領域を切り開くものである。

 

また、本成果は今回開発した技術を用いることにより日米間、日欧間における超高速ネットワークを用いた科学技術研究、特に巨大な実験観測データを共有する研究に対し、基本技術が確立していることを示した。

 

なお、本実験は11月15日から11月21日に開催されるSC2003(アメリカ合衆国、アリゾナ州、フェニックス)におけるデータ転送の予備実験であり、平木教授らは、ここで地球の半周にあたる2万キロを超えるデータ転送実験に挑戦する。

 

本実験は文部科学省科学技術振興調整費、「科学技術研究向け超高速ネットワーク利用基盤整備」に基づき実施された。実験は IEEAFWIDEプロジェクト、Tyco Telecomエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社、ジュニパーネットワークス株式会社、物産ネットワークス株式会社,  ネットワンシステムズ株式会社 、デジタルテクノロジー株式会社との協力により実現した。

 

なお、本稿は

 

http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/Portland-press.html Webページとして公開されています。


 

参考情報

 

http://www.guinnessworldrecords.com/index.asp?id=58445

  ギネスに登録されているネットワーク通信の世界記録

http://info.web.cern.ch/info/Press/PressReleases/Releases2003/PR15.03ESpeedrecord.html

http://archives.internet2.edu/guest/archives/I2-NEWS/log200306/msg00003.html

  現在公表されているネットワーク通信の世界記録(2つ目のURLはその前の記録)

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2002/pr20021121/pr20021121.html

  これまでの日米間データ転送速度記録に関するプレスリリース

 

 

実験形態

 

 実験は、東京から米国オレゴン州ポートランド間のIEEAF が運用する OC-192(9.6Gbps)ネットワーク接続を折り返し、東京に両端のサーバおよびディスクを配置して実施した。ネットワークの遅延時間は、RTT (ラウンドトリップタイム)171ミリ秒である。実験装置の写真は

 

http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/photo/DR-JP.JPG

 

を参照のこと。

 

使用機器は片側に、16台のサーバ、64台のディスクが用いられ、Foundry社製BigIron8000スイッチを介してJuniper社製 T320ルータから米国に接続し、米国側で折り返した。

 

ディスクに格納されたデータは、IP上のストレージプロトコルであるiSCSIプロトコルを用い、TCP/IP により転送された。長距離通信における遅延時間問題を克服するために、Comet TCP技術を使用した。

 

データレゼボワール (Data Reservoir : データの貯水池)

科学技術振興調整費・先導的研究基盤の整備「科学技術計算向け超高速ネットワーク利用基盤の整備」により東京大学、兜x士通研究所、兜x士通コンピュータテクノロジーズが共同で研究開発を進めている、科学技術研究用の遠隔地データ共有システム。従来からのグリッド技術が通常のファイルシステムを用いてデータ共有することにより、ネットワークバンド幅の効率的利用が困難であることに対し、記憶層で直接データ共有を実現することにより、データレゼボワールでは95%を越すネットワークバンド幅利用効率を実現し、2002年に実施されたSC2002 Bandwidth Challengeにおいて最高効率賞を受賞した。2003年度には国内外の10組の科学技術研究拠点に配備される。

 

 

   研究開発担当者 東京大学情報理工学系研究科 平木、稲葉、亀澤

           東京大学理学系研究科    玉造

           東京大学情報基盤センター  中村

           兜x士通研究所       陣崎、下見、河合、下國

           兜x士通コンピュータテクノロジーズ   来栖、坂元、古川、水口、

中野、柳沢、鳥居、長沼、生田

 

   回線関係協力 : WIDE Project

          NTTコミュニケーションズ

 

                     東京大学情報基盤センター  加藤、関谷

           東京大学情報理工学系研究科 山本

                     NTT コミュニケーションズ  村上、福田、長谷部

             

 

          

  詳細は http://data-reservoir.am.s.u-tokyo.ac.jp/  を参照のこと。

 

 

TCP/IP    

インターネットで最も一般的に利用されているプロトコルで、エラー・リカバリー機能があり信頼性のある通信である反面、遠距離通信において高転送速度を出すことは困難であることが知られている。なお、これまでのネットワーク転送速度世界記録は、通常のTCP/IPではなく、長距離・高速転送用にプロトコルを改造したFAST TCP が用いられている。

 

http://www-iepm.slac.stanford.edu/lsr2/

 

今回の記録はネットワークアダプタレベルで遠距離における高速高信頼通信を実現する Comet TCP 技術によって実現した。通信アプリケーションおよびオペレーティングシステムで動作するプロトコルは通常の TCP を用いた。

 

バンド幅・距離積  長距離・超高速ネットワーク上におけるデータ通信能力を比較する指標。TCP通信の困難度がバンド幅の増大とネットワーク遅延時間の積が増大すると増すことから用いられる。なお、バンド幅・距離積は、ネットワーク上(光ファイバ)に存在する通信中のデータの量と解釈される。

 

          これまでの世界記録は38,421 terabit-meters/secondCERNのプレスリリースによる)であったことに対し、今回 125,440 terabit-meters/secondを達成した。これは、従来の記録の約3.3倍である。

 

ディスク間ファイル転送速度

          ネットワーク速度は、両端に接続されたサーバのメモリ:メモリ間転送速度およびディスク:ディスク間転送速度で測ることができる。従来の世界記録は、メモリ間転送で達成されている。

http://sravot.home.cern.ch/sravot/Networking/10GbE/LSR.htm

実際のファイル転送にとり、ディスク間ファイル転送速度が実際に利用可能な転送速度である。また、多くのファイルを同時に多数転送して転送速度を増加させる場合があるが、今回の実験では、1個のファイルを最大速度で転送することが可能なことが特色である。

 

 

注1)データレゼボワール実験チームは米国アリゾナ州フェニックスで開催されるSC2003におけるBandwidth Challengeに参加するため、11月12日から米国出張予定です。11月12日以降の問い合わせはメールでお願いできましたら助かります。


図1 2組のデータレゼボワール

 

実験には片側16サーバ、64ディスクドライブを使用した。

 

 

 

 

OC-192 日米ネットワーク

距離 15,680Km (RTT 171 ms)

 

オレゴン州ポートランド

 

東京:サーバ設置箇所

 

図2.日米接続ネットワーク