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「日本の研究チームがインターネット速度記録を更新」
−記録を大幅に更新−

東京大学大学院情報理工学系研究科
平木 敬
2005年5月4日

要旨

東京大学、WIDEプロジェクト、(株)富士通コンピュータテクノロジーズ、チェルシオ・コミュニケーションズ(米国)、JGN2(日本)、APAN(日本)、CANARIE(カナダ)、SURFnet(オランダ)、アムステルダム大学(オランダ)、NTTコミュニケーションズ(株)が昨年12月末に共同で実施した実験の結果が米国Internet2のInternet2 Land Speed Record(インターネット速度記録)に2種目で認定され、5月4日に米国ワシントンD.Cで開催されているInternet2会議において表彰されました。これは、同研究チーム自身がSC2004において記録した単一ストリームTCP速度記録を45%更新するとともに、カリフォルニア工科大学が持っていた複数ストリームTCP速度記録も17%更新しています。この結果、IPv4によるインターネット速度記録を全て日本を中心とした研究チームが獲得しました。

記録に用いたインターネットは、東京 → シカゴ → ニューヨーク → アムステルダム → シカゴ → シアトル → 東京 であり、東京に設置した東京大学の2台のPC間でデータ転送を行いました。データ転送速度は1秒間に7.21ギガビット(約72億ビット)毎秒です。

実験の詳細はhttp://grape-dr.adm.s.u-tokyo.ac.jp/news.htmlhttp://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/lsr-20041225を参照して下さい。 Internet2 Land Speed Record(インターネット2ランドスピードレコード)は http://lsr.internet2.edu/ に最新の記録と過去の記録を見ることができます。

この結果は、日本の高速インターネット技術が世界の最高レベルであることを具体的な形として示しています。 なお、11月9日の記録と異なる点は、インターネット速度記録の規則に基づき計算した距離を、20,645 kmから30,000 kmに延長したことにあります。

http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/press/lsr-20041225-j に本発表文書があります。

詳細

平成16年12月末に東京大学、富士通コンピュータテクノロジーズ(株)、WIDEプロジェクト、チェルシオ・コミュニケーションズ(米国)、JGN2(日本)、APAN(日本)、CANARIE(カナダ)、SURFnet(オランダ)、アムステルダム大学(オランダ)、NTTコミュニケーションズ(株)が昨年12月末に共同で実施した実験の結果が米国Internet2のInternet2 Land Speed Record(インターネット速度記録)に2種目で認定されました。(http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/press/press_jp.htmlを参照のこと)

今回の記録は、東京大学、WIDEプロジェクト他による2004年11月9日の記録を更新し、単一ストリームTCPクラスと複数ストリームTCPクラスの双方での記録となったものです(表1)。11月9日の記録では、インターネット速度記録の規則により、実際のネットワーク長である31,248kmより著しく短い20,645 kmとして記録が認定されました。この問題を解決するため、米国シカゴにおいてルータによりネットワークを中継し、インターネット速度記録の規則が許す最大長である30,000kmのネットワークを構築し、記録を更新しました。なお、実際のネットワーク長も31,248kmから33,979 kmに伸びています。なお、全ての区間が10ギガビット/秒のネットワークで構成した33,979 kmのネットワーク自身、世界初の実現です。

この記録は、従来の記録と異なり、標準のイーサネットパケット長(1500バイト)と標準のTCP通信方式を用いていることを特徴とし、10ギガビットネットワークの高効率利用が特殊な方式なしで実現することを示しました。現在、多くのPCやサーバが扱っている大多数のアプリケーション、例えばウェブページのアクセス、メール通信、ファイル転送などが直接的に利用できることを意味し、今後数年間のネットワーク利用の高速化が、標準のイーサネット、標準のTCP通信方式で実現することが可能であることを示しました。

具体的には、CD一枚のデータを0.7秒、DVD一枚を5秒、100ギガバイトのディスク一個分のデータを約110秒で地球の反対側に送ることが可能となります。

インターネット速度記録を実現したネットワークは、東京に設置された2台の東京大学のサーバ間を、下記ネットワークで結合しました。

東京・ネットワーク接続T-LEX(WIDEプロジェクトが運用)
東京 → シカゴAPAN/JGN2
シカゴ・ネットワーク接続StarLight
シカゴ → ニューヨーク Abilene
ニューヨーク → アムステルダムSURFnet
アムステルダム・ネットワーク接続Universiteit van Amsterdam、NetherLight
アムステルダム → シカゴSURFnet
シカゴ・ネットワーク接続StarLight
シカゴ → シアトルCA*net 4 (CANARIE)
シアトル・ネットワーク接続Pacific Northwest Gigapop
シアトル → 東京IEEAF(Internet Educational Equal Access Foundation)
東京・ネットワーク接続T-LEX(WIDEプロジェクトが運用)

2台のサーバ間の距離は、中間にある機器間の最短距離の和で測ると33,979 kmとなりますが、Internet2のランドスピードレコードのルールにより、30,000 km として記録は計算されました。このネットワーク上のデータ転送速度が7.21Gbpsであったことから、今回認定された記録は 216,300 テラビット・メートル/秒となりました。

この記録は単一 TCP ストリームを用いたもので、従来の記録を 45% 上回ったため、LSR に認定されました。また、従来の複数ストリーム TCP クラスの記録を 17% 上回っていたことから、複数ストリーム TCP クラスの記録としても認定された次第です。なお、ネットワークの往復遅延時間(RTT)は約499ミリ秒です。

実験で用いたネットワーク経路図


年月日バンド幅
距離積
(テラビット
・メートル/秒)
研究グループクラス
2000年3月21日 4278 Microsoft,
Qwest Communications,
University of Washington,
USC Information Sciences Institute
IPv4@Single Stream
2000年3月29日 5384 Microsoft,
Qwest Communications,
University of Washington,
USC Information Sciences Institute
IPv4@Multiple Stream
2002年4月9日 4933 University of Alaska at Fairbanks,
Faculty of Science of the University of Amsterdam,
SURFnet
IPv4@Single Stream
2002年8月22日 40 Oregon Gigapop,
NYSERNet,
University of Oregon
IPv6@Multiple Stream
2002年9月27日 2517 ARNES,
DANTE,
RedIRIS
IPv6@Single Stream
2002年10月9日 5154 ARNES,
DANTE,
RedIRIS
IPv6@Single Stream
2002年11月19日 10136 Nationaal Instituut voor Kernfysica en Hoge-Energiefysica (NIKHEF),
Universiteit van Amsterdam (UvA),
Stanford Linear Accelerator Center (SLAC),
California Institute of Technology (Caltech)
IPv4@Single and Multiple stream
2003年2月23日 23888 California Institute of Technology (Caltech),
CERN,
Los Alamos National Laboratory (LANL),
Stanford Linear Accelerator Center (SLAC)
IPv4@Single and Multiple stream
2003年5月6日 6947 California Institute of Technology (Caltech),
CERN
IPv6@Single and Multiple stream
2003年10月10日 38420 California Institute of Technology (Caltech),
CERN
IPv4@Single and Multiple stream
2003年11月11日 61752 California Institute of Technology (Caltech),
CERN
IPv4@Single and Multiple stream
2004年2月22日 68431 California Institute of Technology (Caltech),
CERN
IPv4@Multiple stream
2004年4月14日 69073 SUNET,
Sprint
IPv4@Single stream
2004年5月6日 77699 California Institute of Technology (Caltech),
CERN
IPv4@Multiple stream
2004年6月25日 104529 California Institute of Technology (Caltech),
CERN
IPv4@Multiple stream
2004年6月28日 103583 California Institute of Technology (Caltech),
CERN
IPv4@Single stream
2004年9月12日 124935 SUNET,
Sprint
IPv4@Single and Multiple stream
2004年11月8日 184877 California Institute of Technology (Caltech),
CERN,
CENEC
IPv4@Multiple stream
2004年11月9日 148850 University of Tokyo,
Fujitsu Computer Technologies,
WIDE,
Chelsio Communications
IPv4@Single stream
2004年12月25日 216300 University of Tokyo,
Fujitsu Computer Technologies,
WIDE,
Chelsio Communications,
APAN,
JGN2,
CANARIE,
SURFnet,
Universiteit van Amsterdam
IPv4@Single and Multiple stream
表1.過去のインターネット速度記録


単一ストリームTCPインターネット速度記録の推移

この記録に関して特筆すべきことは、以下の通りです:

なお、本成果は、科学技術振興調整費「重要課題解決型研究等の推進」プログラムの実施課題「分散共有型研究データ利用基盤の整備」によるものです。

この実験は、次の企業による機材の提供やサポートを得て実現されました:東陽テクニカ、Foundry Networks、物産ネットワークス、およびネットワンシステムズ。


連絡先 東京大学大学院情報理工学研究科コンピュータ科学専攻 教授
平木 敬
e-mail: hiraki@is.s.u-tokyo.ac.jp
電話:090-6482-9169

実験参加者

ネットワーク担当機関(西から東)

ネットワーク接続ポイント機関

T-LEX, Pacific Northwest Gigapop, StarLight, NetherLight, Universiteit van Amsterdam


東京大学データレゼボワール/GRAPE-DR プロジェクトは文部科学省科学技術振興調整費に基づいた研究プロジェクトで、科学技術データの国際的な共有システムの構築および天文学や物理学、生命科学のシミュレーションを実施する高速計算エンジンの実現を目指しています。GRAPE-DR プロジェクトでは 2008 年に 2PFLOPS の計算エンジンと数 10Gbps のネットワークを利用する国際的な研究基盤を構築します。詳細は http://data-reservoir.adm.s.u-tokyo.ac.jp/ および http://grape-dr.adm.s.u-tokyo.ac.jp/ をご覧下さい。連絡先は平木敬教授hiraki@is.s.u-tokyo.ac.jp(Tel:03-5841-4039 または090-6482-9169)です。

WIDE Project は、インターネットに関連する各種技術の実践的な研究開発を行う研究プロジェクトであり、1988 年から活動を行っています。133 の企業と 11 の大学を含む多くの組織と連携して、インターネットの様々な発展に寄与してきました。Root DNS サーバの一台である M.ROOT-SERVERS.NET の運用を 1997 年から行っており、また IEEAF 太平洋リンクのホストとしてT-LEX (/http://www.t-lex.net/) の運用も行っております。詳細は http://www.wide.ad.jp/ をご覧下さい。連絡先は、press@wide.ad.jp (Tel:0466-49-3618, Fax: 0466-49-3622)です。

兜x士通コンピュータテクノロジーズ(略称“CTEC”)は電子機器関係の組み込みハードウェア・ソフトウェアの開発を行う会社です。特にコンピュータの基盤であるサーバ、ストレージ、ネットワーク関連の開発については長い経験と最新の技術をもって開発を行っており、データレゼボワールはこの技術を背景に開発を行っております。本システムは科学研究では最も標準的なLinuxプラットフォーム上で、ストレージ、ネットワークを並列に動作させることにより、おのおのの能力を最大限に活かし、高いスケーラビリティにより世界最速の転送性能を実現しています。詳細はhttp://www.ctec.fujitsu.comをご覧下さい。

チェルシオ・コミュニケーションズ(本社:米国カリフォルニア州)は10ギガビット・イーサネットのネットワークインタフェースカードと、プロトコルプロセッサ技術を開発し、実験で用いたT110 10ギガビットイーサネットプロトコルエンジンを製造・発売しています。詳細はhttp://www.chelsio.com/をご覧下さい。

SURFnet はオランダの 150 を越える高等教育機関や研究所を接続しているネットワークの運用と開発を行っており、国際的な先端的な研究ネットワークの一つです。SURFnet は、オランダ通商産業省、教育機関、研究機関のプロジェクトである次世代ネットワーク Gigaport の実現に責任を持っており、国内の知識基盤の強化を図ります。光および IP ネットワークやグリッドはプロジェクトの主要な要素です。詳細は http://www.surfnet.nl/ をご覧下さい。

CANARIE はカナダの先端インターネットの非営利組織で、次世代研究ネットワークやそのアプリケーション、サービスを促進しています。主要なメンバーや世界中の同様な組織との協調を促進することによって、CANARIE は技術革新と成長を促し、社会的、文化的、経済的な利点をカナダ国民にもたらすことに貢献します。CANARIE はカナダを先進ネットワークで世界のリーダと位置づけ、メンバーやプロジェクトパートナー、カナダ政府によってサポートされています。CANARIE はカナダの研究教育ネットワークである CA*net4 の開発および運用を行っています。詳しくはhttp://www.apan.net/をご覧ください。

JGN2は、1999年4月から2004年3月まで運用されたJGN(Japan Gigabit Network:研究開発用ギガビットネットワーク) を発展させた新たな超高速・高機能研究開発テストベッド・ネットワークとして、独立行政法人情報通信研究機構が2004年4月から運用を開始したオープンなテストベッド・ネットワーク環境です。産・学・官・地域などと連携し、次世代のネットワーク関連技術の一層の高度化や多彩なアプリケーションの開発など、基礎的・基盤的な研究開発から実証実験まで推進することを目指しています。 JGN2は、全国規模のIPネットワーク、光波長ネットワーク、光テストベッドの研究開発環境を提供しています。また、2004年8月から日米回線を整備し、国内外の研究機関とも連携して研究開発を推進しています。詳細はhttp://www.jgn.nict.go.jp/をご覧ください。

IEEAF (Internet Educational Equal Access Foundation) は通信帯域や機材の寄贈を受け、国際的な研究教育コミュニティに提供することを目的とした非営利組織です。IEEAF 太平洋回線は Tyco Telecom によって5年間の IRU として寄贈された二番目の 10Gbps の海底ケーブルによる回線です。最初の回線である IEEAF 大西洋リンクはニューヨークとオランダのグローニガンを接続しており、2002 年から運用されています。IEEAF の寄贈は現在 17 のタイムゾーンに跨っています。詳細はhttp://www.ieeaf.org/を参照して下さい。

Abileneは米国Internet2が運営する高速学術ネットワークで、米国内の主要地点を10Gbpsの幹線で接続しています。詳しくはhttp://abilene.internet2.edu/を参照してください。

Pacific Northwest Gigapop はアメリカ北西部に於ける次世代インターネットの基盤で、アプリケーションの協調やテストベットであり、国際的な peering 交換地点である Pacific Wave を運用し、また WIDE と協調して IEEAF 太平洋回線の運用を行っています。PNWGP と Pacific Wave は共に広帯域な国際および国内のネットワークを、ワシントン、アラスカ、アイダホ、モンタナ、オレゴンの各州や太平洋地域の大学や研究機関、先端的な R&D やニューメディア企業へと接続しています。詳細はhttp://www.pnw-gigapop.net/をご覧下さい。

StarLightは先進的光ネットワーク基盤として、高性能アプリケーションのためのネットワークサービスを実現しています。StarLightは、2001年夏から運用を開始し、多くのネットワークと接続するとともに光多重ネットワークに対する光スイッチングをおこなってい、APAN/JGN2, Abilene, SURFnet, CANARIE,NLR など多くのネットワークを接続しています。詳しくはhttp://www.startap.net/starlight/を参照してください。

NTTコミュニケーションズ株式会社は、日本の電気通信事業者として、日本国内及び国際の電気通信サービスを提供しており、「グローバルIPソリューションカンパニー」を事業ビジョンとして、インターネットをはじめとするグローバルネットワークサービスの構築、システムインテグレーション、アウトソーシングビジネスの展開を行っています。

用語解説